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北京 立ち退きはつらいよ

2017年03月30日

 行きつけの理髪店が空っぽになっていた。店舗があった低層アパート1階は改修工事中。店のガラス戸に掲示された携帯電話番号にかけると、3、40代の店主が、自転車をこいで迎えに来てくれた。

 突然の工事で立ち退きを強いられたという。以前も10畳ほどと狭かったが、案内された新店舗は6畳間ほどで、さらに手狭になっていた。

 店内には理髪道具が整理されずに、無造作に置かれたまま。「まだお湯が出ないけど」と、ばつが悪そうに尋ねる店主に、私がうなずくと、いつものようにバリカンを操り始めた。

 以前は、目つきの悪いパンクロッカーのような若い弟子が2人いたが、使いっ走り格だけが残った。店主は「ここで3人はきつい」とポツリ。客がいないもう1つの作業用席では、10歳ほどになる店主の息子が、ふんぞり返って、電子ゲーム機に夢中になっていた。

 去り際、散髪費30元(約500円)に引っ越し祝いを加えて100元を渡そうとすると、「これからも来てくれれば、それで十分」と店主は固辞。私は「もちろん」と応えて店を出た。 (城内康伸)