2017年10月05日
この夏、初めて訪れた「水の都」ベネチアで目についたのは、華やかな宮殿やゴンドラではなく、海面のぎりぎり上に並ぶ建物群だった。海上バスから岸を眺めると、多くの建物の地上階は今にも水につかりそうな危うさだ。
温暖化が今のペースで続けば、1世紀以内に海面が140センチ上昇し、ベネチアが水没すると今春、科学者が発表した。今は大勢の観光客で通路を擦れ違うのも大変なほど盛況なこの街が、アドリア海に沈む姿は想像もできない。
帰路、空港へ向かう海上バスからまた岸辺に目が奪われた。海面から伸びる巨大な両手が建物を支えている彫刻があった。
イタリアの芸術家ロレンツォ・クイン氏が、水没の危機にさらされた14世紀建築のホテルを支える手として、温暖化への対策を呼び掛けるため国際美術展に出展したという。
「手には大変な力がある。世界を破壊する道具にもなり、救うこともできる」というクイン氏の発言が雑誌の記事にあった。何世紀も世界の芸術家を魅了したこの街が今、最前線で温暖化を訴える警告灯になっていると実感した。 (垣見洋樹)