2017年11月30日

　ニューヨーク市近郊の自宅から、マンハッタンにある支局へ電車で通勤途中のこと。私の隣席に座った黒人女性が、イヤホンで音楽を聴き始めた際、後部座席にいた男性がこの女性の前に立って何かささやいた。とても小さい声だったが「車内では静かに」と注意したようで、女性も納得してすぐにやめた。

　スマートフォンを活用し、電車内でロックやレゲエを大音量で楽しむ人が多い。イヤホンから漏れてくる音は騒音とも言っていいレベルで、かなりの頻度で「被害」に遭う。

　電車の遅れは日常茶飯事で、我慢強く待つことに慣れている米国人。音にもおおらかかと思いきや、実際は、年配の人たちがマナーが悪い若者らに注意する姿をよく見かける。

　好きな音楽を楽しむのも自由な一方、不快ならば遠慮なく指摘するのも、米国流の自己主張だろう。こんなことを考えていたら、静かな車内で自分の携帯電話が鳴り響いた。

　相手は重要な取材先だ。出ないわけにはいかない。緊急の用件ではないことを確認して「かけ直します」と言って切った。もちろん、自分でも聞き取りにくいほどの小声で。　（東條仁史）