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エジプト・マンスーラ ナイルに沈んだ真実

2018年05月11日

 「エジプトはナイルのたまもの」という格言がある。その豊かな水と肥沃(ひよく)な大地が文明を築いた。北部マンスーラに向かう道すがら、ナイル川の支流を見ると、幻滅した。生活ごみが水路の内外に散乱している。

 水資源・灌漑(かんがい)省に専門家として派遣されている国際協力機構(JICA)職員によると、ごみ収集が機能せず、空き地である土手に投げ捨てられたごみが崩れ落ちる。環境改善事業も世界最長の川では焼け石に水だ。

 問題は、ナイル川への強い誇りが対策を遅らせかねないことだ。カイロ簡裁は2月下旬、人気の女性歌手シェリーンさんに禁錮6月の有罪判決を下した。2016年の公演で観客から「ナイル川の水を飲んだことがあるか」と聞かれ「住血吸虫症になるから、エビアンを飲んだ方がいい」と返したのが「うそのニュース」の流布とされた。

 エジプトでは住血吸虫に感染した人がぼうこうがんで死亡することが多い。日本大使館は遊泳はもちろん、手足をつけることさえ控えるよう注意喚起している。シェリーンさんは「冗談だった」と謝罪したが、事実を口にして罪に問われるとは、冗談ではない。 (奥田哲平)