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ヤンゴン 万能ひも 信頼つなぐ

2018年05月20日

 ブラン、ブランと風に揺れ、緑色のひもがアパートの入り口に垂れている。何だ、これは。

 ミャンマーの最大都市ヤンゴンで、国会議員宅を訪ねた時。首をかしげる私の前で、ミャンマー人の本紙通信員は、迷いなくひもを左右に振り始めた。

 チリン、チリン。音の出元をたどると、7、8メートル上、細長いアパートの3階にある議員宅の窓の外に、鈴がくくり付けられている。チャイムだ。がらりと窓が開き、奥さんが「何かご用?」と顔をのぞかせた。

 来客の多い議員宅の工夫かと思ったら、5、6階建ての古いアパートが軒を連ねる一帯に、多数のひもがあるではないか。

 ひもの下端には大型クリップやかごが結わえてある。住民によると、新聞や手紙を配達員が挟んだり、物売りと品物や代金をやりとりしたりするためだという。エレベーターやインターホンのない建物では合理的だ。

 インタビューを終えると夜。「アパートの入り口を閉めておいて」とかぎを渡された。施錠後のかぎをクリップに挟む。ひもは大切なコミュニケーションツール。するすると引き上げられるかぎを見ながら、温かい気持ちを覚えた。 (北川成史)