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ニューヨーク 夏キャンプ 母の決断

2018年09月02日

 米ニューヨーク市郊外の自宅から教会に身を寄せているデボラ・バリオスさん(32)はこの夏、長男ケナー君(10)を1カ月の夏キャンプに送り出すという。「本来の私なら、1カ月も、しかも泊まり込みのキャンプなんて行かせなかった」。母親として身を切るような決断だった。

 中米グアテマラ出身。不法入国した米国で家庭を築き、仕事を掛け持ちで働き、英語も覚えた。米連邦当局から猶予されてきた国外退去を今年に入って突然求められ、取り締まりの手が及ばないとされる教会へ。家族で米国に残れるよう司法判断に望みをつなぐ一方、自身の強制送還を視野に、ケナー君との別れにも備えざるを得ないのだ。

 ケナー君は算数が得意で、米航空宇宙局(NASA)で働くのが夢という。「彼の人生を無理やり変えることはできない」とバリオスさん。一緒に母国に戻る選択肢はあるが、「夢をかなえられない」というケナー君の言葉が重く響いている。

 暴力が日常にはびこり、教育や就労の機会、医療福祉も不十分な母国の事情も大きい。「米国と同じではない。絶対、同じではないんです」とバリオスさんは繰り返した。(赤川肇)