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バンコク 動物園に残る防空壕

2018年11月21日

 強い日差しと30度を超える暑さにもかかわらず、別れを惜しむ人々でにぎわっていた。

 9月29日、閉園前日にバンコクにある「ドゥシット動物園」に行った。1938年に開園し、タイの動物園で最も長い歴史を誇る。王室や官公庁の建物が並ぶ一角に、大きな池と緑をたたえ、市民の憩いの場となってきた。

 人気者のカバのコーナーの近くに、動物園としては異色の場所があった。太平洋戦争中の防空壕(ごう)の跡だ。縦約10メートル、横約4メートル、高さ約2メートル。地下の薄暗い空間に、赤ちゃんを抱いた女性らの像が設置されていた。

 41年12月8日未明、日本軍はタイに上陸、ビルマ(現ミャンマー)やマレー半島への後方拠点とした。その結果、タイは連合軍の空襲にさらされた。親日として知られるタイだが、防空壕は両国がたどった歩みの複雑な一面を表している。

 老朽化した動物園は近県の広大な土地に移る予定。ただ、防空壕の今後は検討中だという。過去を刻む証人として、残すべき価値は疑いない。壕の周辺で記念撮影をする若者を眺めながら、穏やかに過ごせる重みをかみしめた。 (北川成史)