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ロシア・ホルムスク この町の歴史は1つ

2019年02月18日

 歴史を否定していないことが意外だった。第二次世界大戦が終わるまでの40年間、日本が統治したサハリン(樺太)南部の町ホルムスク(真岡)で、郷土博物館を訪れたときのこと。とっくりや湯飲み、茶わんなど当時の日本人の生活を伝えるコーナーが設置されていた。

 中には「愛国ゆたんぽ」といった軍国主義を思わせる展示品も並んでいた。オリガ・ムラトワ館長は館内だけでなく、日本時代の名残がある街角も案内してくれた。

 製紙工場は操業を止めた現在も、解体されずに残っていた。当時のままの石段を上り、かつて神社があったという高台に立つと、きれいに整えられた日本庭園があった。地元の生け花愛好家が神社の遺構を生かし、デザインしたという。

 北方領土問題を巡り、日本とロシアの歴史観は真っ向から対立する。日本の記憶をとどめることに抵抗はないのだろうか。

 「日本時代も、町に多くのものを残してくれた。2つの国にまたがっても、この町の歴史は1つ。それを保存していくことが役目だと思っている」。肩肘張らないムラトワさんの言葉が新鮮に響いた。 (栗田晃)