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中国・天津 映画より厳しい現実

2019年02月28日

 「王全璋(おうぜんしょう)は善人だ! 一党独裁をやめろ!」。黒竜江省から駆けつけた人権活動家の男性が声を張り上げ、数十人の私服警官らが両脇をつかんで無理やり歩かせる。「どけ!」。警官らは怒号を上げ、撮影しようとする記者を押しのけながら、男性を車に押しこんで連れ去った。

 氷点下10度近くまで冷え込んだ昨年末、天津市の裁判所で3年半も拘束が続く人権派弁護士、王全璋氏の初公判が開かれた。記者らは裁判所に入れず、遠巻きに裁判所を眺めるしかできない。王氏の支援者らは男性のように次々と拘束された。

 手荒な警官には手を焼いたが、外国人記者の妨害をする数人の「ニセ記者」は気味が悪かった。カメラマンの前にあからさまに立ちはだかり、外国人記者の顔ばかり撮影する。「記者ではなく、公安だろう」ときくと言葉を濁したが、昼時には警察官と同じ車両で食事していた。

 男性が連れ去られた直後の騒然とした路上で息をついていると、道行く高齢者に声をかけられた。「映画の撮影かい?」。映画よりも厳しい状況をうまく説明できず、首をふるしかできなかった。王氏の裁判は中国では報じられない。 (中沢穣)