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米ベセスダ 倒木にみる人間模様

2019年03月27日

 前夜からの雪はどうなっただろう。1月中旬のある朝、雪景色を楽しみに玄関のドアを開け、たまげた。隣家との間にある約20メートルの松の木が前庭にどさっと倒れていた。目の前の光景を受け入れられず、いったん扉を閉めた。

 首都ワシントン近郊のベセスダは自然豊かな半面、荒天にも見舞われる。庭の積雪は40センチほど。木が電線に掛からず、けが人もなかったのは不幸中の幸いだった。「枝に積もった雪の重みで倒れたんだろうね」と隣人。「大家に言って処置してもらわないと」。どちらの帰属かを聞く前に、機先を制された。

 雪かきをしながら助けを待つ。「どかしてあげるよ」。庭木業者が数社、早くも営業に来た。初めて会う近隣の女性は「車を出せないでしょ。買い物に行くときは息子をタクシー役に使って」と温かい言葉をくれた。

 近所の友人はチェーンソーを普通に持っており、快く貸してくれた。別の友人は「まさにツリーハウス(木の家)だ」と笑った。当初は災難にしか思えなかった倒木だが、行き交う人の多様な対応に触れながら、これも米国ならではの体験だと改めて思った。 (石川智規)