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ミャンマー・シットウェ 無人になったモスク

2019年04月15日

 1月に訪れたミャンマー西部ラカイン州の州都シットウェのホテルの向かいに、イスラム教の古いモスクが立っていた。

 壁は黒ずみ、誰もいない。側道には警察官の詰め所が設けられている。町中では他にも人気のないモスクを目にした。

 2012年、同州で起きたイスラム教徒ロヒンギャと仏教徒ラカインとの少数民族間の対立が今も尾を引いていた。

 ロヒンギャがラカイン女性を暴行、殺害したとされる事件に端を発する抗争は、両者が共存していたシットウェを含め州内に広がり、ロヒンギャらは国内避難民キャンプなどに逃れた。

 双方の不信感が消えないまま17年8月以降、ロヒンギャ武装勢力と治安部隊の衝突をきっかけにロヒンギャへの迫害が起き、70万人以上が隣国バングラデシュに避難している。

 町の市場には果物が並び、平穏さが漂う。だが、ラカインの男性は「治安が不安定で夜に出歩く人は減った」とつぶやく。

 ホテルの屋上から、モスク越しにベンガル湾が見えた。海はゆったりと隣国とつながる。だが、民族間の分断を考えると、雄大な風景を素直には楽しめなかった。 (北川成史)