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米ハリスバーグ 「現実」触れない博物館

2019年07月01日

 米東部ペンシルベニア州のスリーマイル島(TMI)原発事故から40年。当時を知る人々を訪ねる合間に、TMIから十数キロの州都ハリスバーグにある州立博物館に足を運んだ。世界の原発初のメルトダウン(炉心溶融)事故について、何をどう伝えているのか見たかった。

 「TMIの除染」。展示コーナーは事故そのものより、1980年から10年続いた除染作業に主眼を置く。人が近づけない原子炉建屋の偵察に使ったロボットの試作機が目を引く一方、14万人超が避難した混乱や米政府が否定する健康への影響、溶け落ちた核燃料を取りきれていない現実には触れていない。

 40年を迎えた3月28日未明、住民ら約30人がTMI原発前で事故による苦悩や不安を訴えた。今も刻まれる事故の歴史を除染活動に集約するのはやはり妥当とは思えなかった。

 TMI周辺で動植物の奇形事例を収集し、米政府に放射線の影響を指摘してきたメアリー・ステイモスさん(75)は「TMIを知らない地元住民すらいる」と事故の風化に危機感を募らせる。事故を語り継ぐだけでなく何をどう伝えるかも問われている。 (赤川肇)