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北京 「詐欺師」と疑ったが

2019年07月31日

 中国経済は減速するものの、お金持ちはまだ健在だ。

 日本に帰国する記者の送別会に招かれて、「軍民融合」と大きな看板があるビルに着くと、背広にネクタイ姿の男性が気さくに握手を求めてきた。

 日本ではほとんど知られていないが、「劉人島」という中国では有名な画家だという。書家や彫刻家でもあり美術評論家でもあるらしい。中国各地の名勝地を描いた風景画が多く、オークションでは1億円を超える評価も受けているという。

 ビルは人民解放軍が絡む会社か美術館かと思いきや、劉さん個人の芸術センターだった。自作のほか、50センチ四方の翡翠(ひすい)の原石や、中国近代絵画の巨匠、斉白石(さいはくせき)の掛け軸や有名な書家の作品が無造作に掛かっていた。

 高級な茅台(マオタイ)酒を何本もふるまい、愛車のポルシェ・カイエンターボや桁違いな収蔵品の量に驚きながら「もしや詐欺師では」と、フレンドリーな笑顔を見ながら、ふと疑問に思った。

 しかし、記念の書を書いてくれた時の表情は一変。人を寄せ付けない真剣な表情で筆を走らせた。笑顔は、腐敗撲滅運動も乗り越える処世術だったのかもしれない。 (安藤淳)