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韓国・天安 「負の遺産」の残し方

2019年09月19日

 ソウル中心部にある朝鮮王朝時代の宮殿「景福宮」の敷地内にかつて、日本の植民地時代に建てられた旧朝鮮総督府の建物があった。王宮を覆い隠すように立ち、戦後も政府庁舎や国立博物館として使われたが1995年に解体された。

 その部材の一部が忠清南道(チュンチョンナムド)・天安(チョナン)にある独立記念館に野外展示されていると聞き、訪ねた。日本からの独立運動を中心にした7つもの展示館がある記念館の敷地は広大で、家族連れらが木陰に小さなテントを置き、水遊びやたこ揚げに興じていた。

 総督府の撤去部材は、そこから離れた一角にあった。説明には「建物の残骸を粗末に扱う形」で太陽が沈む敷地西側に配置し、「植民残滓(ざんし)の清算を強調した」とある。だが尖塔(せんとう)を中心に、円形に部材が置かれた姿はローマ遺跡か何かのよう。石柱の彫刻も尖塔の美しい装飾も、解体されなければ間近で見ることはできなかっただろう。

 大正時代の西洋建築技術の粋を集めた在りし日の姿を知る身として、取り壊しを聞いたときは残念だった。だが豊かな緑と静けさの中で見た“残骸”は、「こんな残し方もある」と思わせてくれた。 (境田未緒)