2019年11月25日
このまま、この子は倒れてしまうのではないか。そう思わせるほど、過去を語る16歳の少女は激しく動揺していた。
11歳か12歳で、4人にレイプされた心と体の痛みは、想像を拒むほどの残酷さだった。「両太ももを血が伝う自分を、周囲の人間は隠した」。誰も救ってくれない真っ暗な絶望の中で、少女は生きてきた。
国連児童基金(ユニセフ)・アジア親善大使のアグネス・チャンさんはずっと、彼女の手を握っていた。話を聞き終わると「あなたの尊厳はみじんも失われていない。あなたは勇気があって美しい」と語り掛けた。
少女は「初めてそんなことを言われた。みなさんが私の話を聞き、尊重し、受け入れてくれた。とても、とても、うれしい」と顔を上げた。
最後にアグネスさんは「あなたは生まれたての赤ちゃんのように清らか。今日はあなたが生まれ変わった日。バースデーソングを歌おう」と呼び掛けた。泣きながら、あの歌を歌ったのは初めてだった。私だけではない。アグネスさんもユニセフ職員もみんな泣いていた。ただ一人、うれしそうにはにかむ少女を除いて。(沢田千秋)