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北京 為政者の笑顔の陰で

2020年01月16日

 小学生の娘がスマートフォンを構えると、警察官が足早に寄ってきた。「撮影は禁止です」。10月1日の建国70周年の軍事パレードに向け、予行演習が行われた週末の夜。北京の目抜き通り「長安街」は封鎖され、50メートルほど離れた路地から装甲車などの通過を眺めた。

 子どものピンぼけ写真に目くじらを立てるほど、9月はパレードの準備一色だった。毎週末、中心部の通行が制限され、地下鉄も止まる。商店や飲食店も閉店。長安街に近い自宅マンションは夕方から翌朝まで出入り禁止の夜もあった。ドローンはともかく、たこや伝書バトも禁止とのお触れには苦笑した。

 国威発揚を最優先し、市民の不便はみじんも気にしないお国柄だが、準備にかかわる人たちも大変だ。外務省担当者からパレード関連の連絡がきたのは土曜の深夜0時近く。「お疲れさまです」と返信した。

 「独裁国家における国威発揚とは、独裁者の個人的権威の誇示にほかならない」。以前取材した中国人作家、王力雄(おうりきゆう)氏の言葉だ。無数の不便と労力を踏み台に、習近平(しゅうきんぺい)国家主席は天安門に登って軍事パレードに手を振る。 (中沢穣)