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タイ・メソト 計れぬ価値のサイン

2020年03月18日

 「この人を知っているかい? 日本の運動選手らしいんだけど」。タイ西部の国境沿いにある町メソト。男性が差し出した古びたノートの1ページに、ボールペンのサインが見えた。

 男性はミャンマーの内戦から逃れた少数民族カレンの難民の1人。サインは2年ほど前、メソト付近の難民キャンプを慰問した日本人にもらったそうだ。

 サインの文字は判読不能だが、上方に「Tigers」と添えてある。頭に浮かんだプロ野球阪神の選手をスマホで検索してみた。「鳥谷 サイン」。画面に出たサインはノートと一緒。鳥谷敬選手の写真を男性に示すと「彼だ」と声を上げた。

 約70年間続くミャンマーの内戦は多数の難民を生んだ。タイ領内の難民キャンプでは、今も9万人以上が物資の不十分な生活を強いられている。

 鳥谷選手は持参した靴を寄付したという。男性は「とても助かっている。彼は私を覚えていないだろうけれど、私は一生忘れないよ」と目を細めた。

 男性は阪神退団が決まった鳥谷選手のグッズにファンが殺到したニュースなど知らぬまま、サインが書かれたノートを大切そうにしまった。 (北川成史)