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香港 巻き添えを食うのは

2020年03月23日

 香港の繁華街・尖沙咀(チムサチョイ)を昼前に歩いていると、スズメほどの小鳥が灰色の腹を上に向けて死んでいた。前夜に警察が放った催涙ガスで死んだとみられる。あたりにはガスの臭いがまだ残り、目と鼻にしみる。

 近くには学生たちが立てこもった香港理工大があり、夜になると多くの市民が「学生を救え」と声を張りあげていた。スーツやスカート姿の人々が道路にしゃがみこんで一心不乱にれんがを剥がし、コンコン、カンカンという音が響く。バリケードに使う竹ざおなどがバケツリレー方式で次々に運ばれていた。

 警察は放水車や催涙弾の使用をためらわず、人々はれんがを投げて警察への怒りをぶつける。衝突は街じゅうに広がり、翌朝の路上にはれんがが散乱し、崩れたバリケードや燃やされたごみ箱などが散らばる。香港市民によると、衝突のあとには催涙ガスの巻き添えとなった猫や小鳥の死骸が多いという。

 いま香港を訪れる観光客は、荒れた繁華街を目にするかもしれない。「ゴキブリ」「ヤクザ」。警察とデモ隊は互いにののしり合う。そんな社会の分断が、荒れた街の姿につながっているようで悲しい。 (中沢穣)