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モスクワ 未承認国で育つ果実

2020年03月27日

 冬が来ると、だいだい色の実が恋しくなる。11月に赴任したモスクワ。アパート近くのスーパーで日本人にとって懐かしの商品を見つけた。

 温州ミカン。日本と同じ品種か分からないが、見た目は日本産とそっくり。苦いか酸っぱいか、家に帰って恐る恐る口に入れると、甘い。

 産地を見るとアブハジアだ。旧ソ連を構成した国の一つ、ジョージア(グルジア)の北の地域。独自の言語と文化を持ち、分離独立を目指している。一時はジョージア政府とアブハジアの間で戦闘が起き、多くの血も流れたのだが…。そんな歴史も感じさせず、黒海のお日さまを浴びて育ったこのミカン。

 ロシアは、国際的には認められていないアブハジアの独立を承認し、経済的な後ろ盾になってきた。ジョージアは国内に混乱を起こした「悪玉」としてロシアを批判したり、嫌ったり。ロシアで出回るミカンもアブハジアとの結び付きを物語る証拠品かもしれない。

 世界の陸地の6分の1を占めた旧ソ連。民族も言語もさまざまで、国家間のゴタゴタも多そう。ミカンを食べると不思議と背筋が伸びた。 (小柳悠志)