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サンティアゴ 対岸の火事と思えず

2020年05月08日

 周囲の人々が突然、散り散りに逃げだした。10数人の警官隊が走ってくる。記者章を着けていても、お構いなし。カメラを向けていると、すれ違いざまに盾や警棒でたたかれた。特定の誰かを追っていたようには見えなかった。デモの抑圧そのものが目的だったのかもしれない。

 貧富差や社会保障への不満を背景に昨年10月から反政府デモが続く南米チリ。落書きだらけの首都サンティアゴ市街地では12月に入っても、デモ隊の一部が投石や破壊行為を繰り返し、警官隊が催涙弾や放水砲で対抗する日常が続いていた。

 ただ、暴力に訴える人はごく一部だ。圧倒的多数は違う。プラカードや旗を掲げ、年金や教育の拡充、軍事政権時代にできた現行憲法の刷新を訴えたり、単に結束を確かめるかのように集まったり。そんな非暴力の群衆にも警官隊の矛先は向く。

 「尊厳を守るための闘い」。チョコレートを配ってデモ隊を応援する予備校生パウリナ・ラゴスさん(19)にデモの理由を尋ねると、即答した。「金持ちが国を支配し、国民のために働かない」。格差と政官不信。日本の現状に鑑みれば、対岸の火事とも思えなかった。 (赤川肇)