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ワシントン 「トム」が縮めた距離

2020年07月11日

 スターバックスなどのコーヒーショップで注文すると、よく名前を聞かれる。商品を間違って別の客に渡さないためだが、こちらが「ワタル」と言っても、なじみのない名前らしく、たいてい店員にけげんな顔をされる。そこでスペルを説明するのだが、それでも「WAPARU」などと間違えられることが多く、どうにも面倒くさかった。

 ある日本の経営者が米国で「マイク」という愛称で仕事をしていたと話していたのを思い出し、自分も何かニックネームをつけようと考えた。なかなかいい愛称が思いつかなかったが、ふと頭に浮かんだのが子どもの頃見ていた人気アニメ「トムとジェリー」だった。

 そこで店員に名前を聞かれ「トム」と答えると、一発でスムーズにいった。その後もコーヒーショップでトムを名乗っているが、店員とも「今日は寒いね」「うん凍えるよね」などと立ち話をする機会が増えた。相手との距離が縮まったように感じるのは愛称のおかげだろうか。

 だがそれも新型コロナウイルス以前の話。今ではワシントンでもなじみの店は全て閉まっている。普通にコーヒーが飲める日常が懐かしい。 (白石亘)