【本文】

  1. トップ
  2. コラム
  3. 世界の街
  4. 中国
  5. 北京 おいしい1杯の行方

北京 おいしい1杯の行方

2020年07月19日

 ある日の午前、自宅近くのコーヒーチェーン大手、瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)の店内が混み合っていた。新型コロナウイルスの流行によって門を閉じていたが、少し前に営業を再開したばかり。久しぶりの開店で好調なのかと考えた。

 だが実際はだいぶ違う。同社が巨額の会計不正を認め、経営危機が報じられたことが理由だった。同社は2杯分のクーポンを買えば1杯無料というように、クーポンの事前購入によって、大幅に割引される仕組みだ。午前の混雑はクーポンが使えなくなると焦った人々が、いわば債権回収に詰めかけたといえる。

 私が経営危機のニュースに気づいたのは、恥ずかしながら昼すぎだった。経済ニュースに敏感な中国人に感心した。国内最多の店舗数を誇る同社は、米大手スターバックスの打倒を掲げて、2年前に開業したばかり。栄枯盛衰の早さにも驚く。

 今回の騒動で友人が「どうせ無駄になるから」とクーポンをSNSで送ってくれた。ラッキンのコーヒーは実は初めてだが、想像以上においしい。店はまだ開いているものの、今さらクーポンを買うわけにもいかず複雑な気分になった。 (中沢穣)