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韓国・延坪島 最前線で平和を願う

2020年07月28日

 ドーン、ドーン-。経験したことのない衝撃音を感じ、北朝鮮の攻撃が再び始まったかと、身構えた。海上の南北軍事境界線である北方限界線に近い韓国北西部の延坪島(ヨンピョンド)。民宿のおかみは「弾は飛んで来ないわよ」と苦笑した。島内の韓国軍基地の日常的な射撃訓練という。

 島では2010年11月、北朝鮮の砲弾80発を受け、民間人2人と兵士2人が死亡する事件が起きた。もともと韓国人でも知る人ぞ知る島だったが、事件後、観光客が増えたという。

 「砲撃事件だけでなく、豊かな自然も知ってほしい」。おかみは、春の花々が咲く断崖や夕日で光る干潟も見せてくれた。

 韓国では、外食は友人や家族らと複数でするものと考える人が多く、一人旅では店探しに苦労することが多い。おかみは、地元漁師らのたまり場になっている食堂に私を誘った。

 年配の常連客は皆、人懐こく、自慢のタコ料理を振る舞ってくれた。「うまいだろ? 戦争が終われば楽園になれる」。熱い言葉とともに、焼酎が何杯もつがれる。頭はくらくらしたが、最前線の島の住民たちの平和を願う心の神髄に触れようと腹を決めて飲んだ。 (相坂穣)