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バンコク あぁ 最期の対面さえ

2020年08月08日

 5月中旬、在タイの国際機関に勤める友人の同僚男性が急死した。50代後半で、周りには極めて健康的に映った男性を心臓発作が襲った。

 その日の朝、男性は自宅バルコニーで、いつものようにコーヒーを飲んでいた。しばらくして、妻が寝室に戻った男性の様子を見に行くと、横たわり、意識をなくしていたという。

 男性の子ども2人はスイスで暮らしている。訃報に接しても、父親とは対面できない。新型コロナウイルス対策で、タイが国際線の乗り入れを禁じているためだ。家族の心情は察するに余りある。記者もタイ赴任中の2年前に父を亡くしたが、今だったらどうしていただろう。

 タイは5月末だった国際線の乗り入れ禁止期限を6月末まで延長した。男性と同様のケースがさらに増えるかもしれない。

 厳しい入国制限を課した国のいくつかは、感染の抑え込みに成功している。ただ、それは本来自由であるべき人の移動を阻む措置でもある。

 新型コロナによる異常事態は、さまざまな制約をもたらしている。抑止対策の陰にある悲しみも、心にとどめておきたい。 (北川成史)