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モスクワ 花火があ・れ・に見えて

2020年08月10日

 やってはいけない言い間違いが時にある。

 自宅近くのスーパーマーケット。店員と商品のやりとりをするさなかに「冷凍されたタラ」と言うべきところを「感染したタラ」と言いかけた。ロシア語で冷凍と感染は単語の響きが似ているから。

 モスクワでは、新型コロナウイルスの新規感染者が1日に5000人を超える日も。買い物でも感染の怖さから、この単語が頭から離れない。でもスーパーで「感染」と口にしたらシャレにならない。警察か保健当局から防護服の男たちが飛んでくるだろう。

 市内のイベントは軒並み中止だ。5月9日の第二次大戦の戦勝記念日も軍事パレードは延期となり、打ち上げ花火のみに。家の窓から花火を眺めていたら、初めこそ心が和んだが、だんだん気が重くなってきた。

 というのも、球状に広がる花火がウイルスの形とそっくり。夜空に幾重にも広がるようすが禍々(まがまが)しい。6歳の息子も「コロナに似てるね」と指さす。

 ああ、かかってもいないウイルスに言葉と視覚を侵されるとは。疫病の世の悲しさよ。
 (小柳悠志)