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バンコク 迅速さに振り回され

2020年08月17日

 新型コロナを抑え込んだとされるタイ政府の方針は、迅速で柔軟。半面、唐突で朝令暮改とも言える。期限もなく「明日から店内営業はだめ」と言い渡された2カ月余前、居酒屋を営む長谷川真也さん(44)は「ただ悔しい」と口をへの字に結んだ。

 国内外で経験を積み、昨夏、バンコクで念願の店を持った。カウンターと少しのテーブルに座敷。好立地とはいえず、宣伝は控えめ。常連もつき、手応えを感じていたころ。途方に暮れる間もなく、持ち帰りや配達に切り替え、奔走した。

 売り上げ減の補償はゼロ。面倒をみると決めたのに、給料日に去っていった従業員も。半面、タイ人、日本人問わず、家賃や仕入れ代金の支払いで融通を利かせてくれる業者や、飽きるだろうというほど、日々注文してくれる客がいた。

 「得難い経験だった」。光が見え始めた今、笑って振り返る。同様にしのいだ店もあれば、退場を余儀なくされた同業も。せき立てられるように、郷に従った結果なのかはわからない。一寸先が見えない怖さは刻まれた。「Withコロナ」の飲食ルールや、外食マインドは-。正念場は続く。 (岩崎健太朗)