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北京 並んだ方が良かった

2020年08月28日

 中国の全国人民代表大会(全人代)の初日は各種資料が配られるため、人民大会堂前で早朝から寒さに震えながら並ぶのが恒例だ。しかし今年は新型コロナウイルスのため3月上旬から2カ月半遅れた上、感染対策で資料はネット上で配られた。

 並ぶ手間が省けて楽になったと喜んだが、当日は冷や汗をかいた。昨年まで李克強(りこくきょう)首相の演説開始に先立って配られた資料も、なかなかネット上に出てこない。「並んだ方が楽だった」と慌てながら原稿を書いた。

 ゴム印会議とやゆされる予定調和の全人代は、中国の権力者を目にする数少ない機会でもある。昨年は少数民族弾圧で批判を浴びていた新疆ウイグル自治区の会議がピリピリとしていたのが記憶に残る。地方幹部らが習近平(しゅうきんぺい)国家主席を持ち上げる必死な姿は切実感が見て取れた。

 だが今年は現場で取材する機会はなかった。王毅(おうき)国務委員兼外相も大型画面を通じ、記者の質問に答えた。まるでテレビキャスターが原稿を読んでいるかのようだった。内外の記者の目にさらされる機会が減り、中国政府は楽になったはずだ。来年はまた早朝から並ぶ機会があるだろうか。 (中沢穣)