2020年09月07日
扉の前で消毒に検温、来店記録の紙に電話番号を記入する。社会的距離を置く長いすに座ると、マスクにフェースシールド姿の女性が迎えてくれた。2カ月余りの閉鎖措置が解かれ、久々に訪れた古式マッサージ店は、少し仰々しくなっていた。
約2500年前、仏教とともに伝わったとされる伝統の技。農作業の疲れを癒やす施術が起源といい、昨年、ユネスコの世界無形文化遺産にも登録された。市街地では数メートルおきに店が並び、正規の従事者だけで15万人以上。それが新型コロナ禍で一時的とはいえ、職を失った。
担当の女性はバンコクから400キロ以上離れた故郷の村に戻り、普段は両親に預けている息子との時間を過ごし、農作業を手伝っていたという。「いい骨休めにはなったけど、やっぱり稼いで仕送りしないと」
気が付くと、古式に似つかわしくないフェースシールドを外し、肘や膝、時に踏み付けるように全身で圧をかけてくれた。「疫病もこれで退散してくれるはずよ」。客がまだ戻らないもどかしさを、笑いで吹き飛ばすように力強く。翌日は、少々のもみ返しも心地よかった。 (岩崎健太朗)