【本文】

  1. トップ
  2. コラム
  3. 世界の街
  4. 中国
  5. 北京 面倒で恐ろしい統制

北京 面倒で恐ろしい統制

2020年09月08日

 なぜか、同僚との話がかみ合わない。少し首をかしげたが、理由はすぐにわかった。中国のSNS、微信(ウェイシン)で送ったはずのメッセージが同僚に届いていなかった。

 その日は民主化運動が武力弾圧された天安門事件から31年目の6月4日。天安門事件などの言葉を含むメッセージが自動的に排除されたようだ。中国政府の情報統制は事件の存在すら消し去ろうとする。「天安門事件」を「例の件」に変えるなどして送り直し、メッセージは無事に届いた。面倒くさい。

 前日3日の夜、天安門広場を車で通過すると、警察官がハンドマイクで「写真を撮るな、前に進め」と怒鳴っていた。広場から西に約5キロ、天安門事件で多数の死傷者が出た木樨地(もくせいち)では数十人の公安関係者がうろついていた。抗議活動はおろか、遺族による追悼なども許されない。いかつい男たちの絡み付くような視線を浴び、写真を撮るのも恐ろしい。

 「中国の成し遂げた偉大な成果は、中国の選択が正しかったことを証明する」。中国外務省の報道官は4日、今年も同じ言葉を口にした。あと何年、繰り返すのだろうか。 (中沢穣)