2020年10月15日
海沿いの、こぢんまりとしたホテルのフロントで、若い2人のスタッフが所在なげに佇(たたず)んでいた。「この週末は忙しくなるはずだったけど、見ての通り…」。2カ月近く、国内で新型コロナウイルスの新規感染ゼロが続いていた7月中旬。ようやく戻ったにぎわいに、水を差されたようだった。
入国したエジプトの軍関係者と、スーダンの外交官家族に陽性が判明。規定の隔離を守らず、自由に街中を出歩いていたことがわかった。エジプト人が滞在していたラヨーンでは、週末のホテルの予約キャンセルが続出し、一部施設の閉鎖も。「特権階級は許されるのか」「これまでの我慢が水の泡」。取り戻した暮らしを脅かされた悔しさが、SNSなどで噴出した。あの痛みを二度と味わいたくないというこの国の人たちの緊張感を、改めて意識させられた。
閑散としたショッピングモールでも関係者がさぞ腹を立ていると思いきや、年配の女性店員は笑って首を振った。「当人も陽性とは知らなかっただろうし、責めてもしょうがない。いつも覚悟はしてるから。ただ、政府には、しっかりしてもらわなきゃねえ」 (岩崎健太朗)