2020年10月28日
降り立った空港から走るタクシーの窓越しに、マンハッタンの街並みが近づいてきた。
天を突くような高層ビルがどこまでも続く。ニューヨークを象徴する光景に目を奪われながら、その一隅を見て「当然だけど、やはりないな」と思った。
世界貿易センタービル。米中枢同時テロによって2001年9月11日に崩壊したツインタワーだ。多くの人々と同様、あの日を鮮明に覚えている。新人記者だった編集局内。相次いで旅客機が衝突するニュース映像…。自分には、受信機からあふれる原稿を先輩に手渡すことしかできなかった。
「私は家の屋上に上がって、立ち上る煙を呆然(ぼうぜん)と見つめていたよ」。運転手の中年男性は、そう振り返った。そして口には黒いマスク。「今、あれ以来の悲劇がこの街を襲っているね」。あの惨事から19年、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)は、またも無数の命を奪った。「今回は煙すら見えない。でも心配しないで。この街はきっと復活する」
今月、ニューヨークに赴任した。彼の言葉を信じながら、この地の人々が立ち上がる姿を見つめていきたい。 (杉藤貴浩)