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ロンドン 今は愛すべき曇り空

2020年11月09日

 最高気温30度以上が数日続き、終戦記念日を境に急に涼しくなった。どんより曇り、しとしとと雨。こんな天気が私のロンドン最終日まで続くようだ。英国の夏は短い。3年前の赴任当初は、薄暗い天気に心底まいったが、今は嫌いじゃない。

 初めて、ヒースロー空港に降り立った日のことはよく覚えている。入国管理の係官に職業を告げると、「誰のためのジャーナリストか」と問われた。彼は雇用主を尋ねていただけだが、その質問は妙に観念的に響いた。答えを探してみようと、初めての「世界の街」に書いた。

 「転んでもただでは起きない」を信条にやってきた。ひどい目に遭わされたこともあったが、ピンチをチャンスに変えてきた。誰のための記者か。答えは「自分」だ。「この話を日本の読者に知ってもらいたい」という自分の願いに忠実に記事を書いた。それが、1人でも多くの人に届いたなら、望外の喜び。

 旅先で「どうしてブリティッシュ・アクセントなの?」と聞かれるのが、無性にうれしかった。かっこいいから、マネしてきたのだ。ロンドンは、住んでいることを誇りに思わせてくれる街だった。 (沢田千秋)