2020年11月10日
8月下旬、タイ南部カオラックを訪れた。マレー半島西岸の落ち着いたリゾート地で、プーケット島の空港からタクシーで一時間余りの場所にある。
運転手のソムサックさん(45)は以前、カオラックのホテルで働いていた。2004年12月26日朝、勤務先をスマトラ沖地震の津波が襲った。2階のロビーに何とか逃げ上がったが、同僚らが命を落とした。
日本人を含め22万人以上の死者・行方不明者を出した地震から16年。今は新型コロナウイルスの打撃を受けている。
入国規制のため、外国人観光客は激減。カオラックの中心街に人影は少ない。開いている店は2、3割だという。
「多くの人が職を失った。雇用面では津波後よりも今の方がひどい」。ソムサックさんは顔を曇らせる。津波後、被災地を離れれば仕事はあった。だが、新型コロナは国の経済全体を縮小させている。
車窓からゴム農園が見えた。「農漁業の仕事を探す失業者もいる。前は『重労働で不安定だ』と嫌がっていたのにね」。ソムサックさんはポツリ。周辺の海の青さと対照的に、口調はさびしげだった。 (北川成史)