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ロンドン 歓喜と抗議とともに

2020年11月12日

 最初は待ちわびた日を、仮装で祝っているのかと思った。新型コロナウイルス禍で休館していたロンドンの大英博物館が8月下旬、5カ月半ぶりに再開した。取材に行くと、全身を灰色に塗って彫像に扮(ふん)した女性が入り口前に立っていた。

 女性が表現したのは、博物館が所蔵する紀元前5世紀の彫刻群「エルギン・マーブルズ」。19世紀に英国の外交官がギリシャ・パルテノン神殿から持ち去った品だ。女性は返還を求める抗議グループの一人で、仲間は「博物館には波乱の歴史が詰まっている」と声を上げた。

 米国の黒人男性暴行死事件を契機に、かつての奴隷貿易や植民地主義にも厳しい視線が向く。大英博物館も奴隷の労働で富を得た創設者の胸像を台座から移設。大英帝国の力による収集品は少なくなく、返還を求める声はより強まるかもしれない。

 険しい顔のデモ隊の脇には入館待ちの行列ができた。みんなが笑顔で、デモは見て見ぬふりの様子。ある男性に博物館の魅力を聞くと「現地へ行かなくてもギリシャの彫刻を見られること」とのひと言。再開の興奮からのブラックジョークだろうが、笑えなかった。 (藤沢有哉)