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米ノガレス 今年の死者の日は…

2020年12月18日

 メキシコとの国境の街ノガレス。夕方でも人通りの少ない商店街に、抱えるほど大きな黒いクモの縫いぐるみを持った男性がいた。地元服飾店のエバン・コリーさん(34)。「死者の日の売り場の準備をしているところだよ。毎年、みんな親族や友人で集まるんだ」

 聞き慣れない記念日だが、ヒスパニック系の人々にとっては10月末から3日間ほど続く大切な行事。重い名前とは裏腹に、戻ってきた死者の魂とともに明るく祝宴を開くという。

 コリーさんのクモも祭壇などを飾る品の1つだ。店内に目をやると、花嫁衣装を着た骸骨や原色のドレスが並び、街がマリーゴールドの香りに包まれるという独特の祝祭を見てみたくなる。

 しかし、「今年はダメだね。盛り上がらないと思う」とコリーさん。移民を犯罪者呼ばわりし、国境の壁を強化したトランプ政権に新型コロナウイルスの影響が重なり、壁の両側に住む親族らが集まることは難しくなった。

 例年は準備でにぎわう商店街にも人通りはない。「死者の日」が、文字どおり暗く感じられる今年が悲しい。 (杉藤貴浩)