2020年12月24日
人の名前が隅に小さく手書きされた100元札を、数年前まで時々見かけた。なぜこんなことをするのか不思議だったが、北京の地元小学校に子どもを通わせていた日本人女性がこの謎の答えを教えてくれた。
女性によると、かつて給食費などを払う際、学校側からすべてのお札に名前を書くように指示された。学校側が集めたお金から偽札を見つけた場合、書かれた名前を見れば誰が払ったものか分かる仕組みだ。
かつて中国では偽札が多かった。ばば抜きのジョーカーのように、いつのまにか偽札が財布の中に紛れ込む。支払いのときに拒否され、財布のすみが定位置になった偽札もあった。偽札対策として名前を書くのは、庶民の知恵といえる。うまい方法を考えたものだと感心した。
しかし知り合いの中国人女性は「学校への支払いはお札の番号を控えていた。お札に名前を書くのは違法だし、そんな指示をする学校は少数では」。謎は謎に戻ったが、現在は携帯電話での支払いが普及し、現金を使う機会が激減した。もちろん偽札も見かけない。真偽はともかく、庶民の知恵を生かす場も消えつつある。 (中沢穣)