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米ウィルミントン 求めたのは退屈さ?

2021年01月05日

 「退屈な所だけど、ようこそデラウェア州へ」。大統領選の取材で訪れた米東部の同州。事前に知人から「特に何もないよ」と聞いていたが、地元住民さえ自ら「Boring state(退屈な州)」と言うのには驚いた。面積は全米で下から2番目。旅行ガイドにも、まず載っていない。

 確かにウィルミントンの街を歩いてみても、小ぶりなビル街の周りに住宅地が点在し、淡々と流れる川や静かな森が広がるばかり。そこには大都会の刺激も大自然の迫力もない。

 そんな街が世界的な注目を集めたのは、ひとえに次期大統領の座を確実にしたバイデン前副大統領のお膝元だから。街の人は口々に言った。「彼とは理髪店が同じなんだ」「たまに奥さんとも教会で会うよ。良い感じの夫婦だ」

 数々の暴言、根深い人種差別を巡る暴動、中国やロシアとの絶えない摩擦…。トランプ大統領の4年間に振り回された国民が選んだのは、刺激はなくとも等身大で過ごせる安心感だったのかもしれない。「退屈の地」で融和を語るバイデン氏の演説を聞きながら、そんなことを考えた。 (杉藤貴浩)