2021年01月13日
「ボストンに行くなら、少し頼みがあるんだけど」。出張直前、日本にいる知人から連絡があった。留学時代に世話になった恩人と長年音信がなく、互いの無事と連絡先を確認したいのだという。
ただ、手掛かりは現在60歳くらいになる男性の姓とボストン大学の近くで営んでいたという飲食店の名前だけ。ネット検索してもヒットしない。案の定、仕事後の聞き込みは難航した。
それでも、大学周辺を行き交う人々は耳を傾けてくれた。
「そんな店は知らないなあ。でもちょっと待って。奥で店長に聞いてくるよ」と言ってくれたカフェ店員。似た名前の店を知っているというカップルは、住所を調べてメモしてくれた。車いすに乗ったホームレスの男性は、首を振ってため息をついた。「わたしもこの街の人たちから助けをもらって暮らしている。だから力になってあげたいが…」
結局、秋の早い日没が迫り、帰りの特急電車に飛び乗った。知人の期待には応えられなかったが、彼が良い出会いを重ねた街の温かさは見つけられた気がした。 (杉藤貴浩)