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米ミスティック 神秘の歴史に流され

2021年02月04日

 「神秘的な」という意味の街の名前が、以前から気になっていた。家から車で2時間、米東部コネティカット州の港町「ミスティック」を休暇で訪れた。

 疑問は地元の博物館ですぐに解けた。英国植民地時代に定着した名は、英語ではなく先住民の言葉「ミシトゥク(大きな干潟、河口)」に由来するという。実際、街は言葉通りの地形を生かして歩んだ。大西洋を望む良港は19世紀、造船と捕鯨の拠点に。今は当時の面影を残す街並みが観光客をひきつける。

 「オールを落とさないように。30分で戻ってきて」。貸しボートに乗り、かつて多くの船乗りが出発した海に出てみた。
 思えば、日本における黒船来航にも捕鯨船の燃料を求めた米国側の事情があった。その後の友好と戦争の航跡は、誰もが知る通り。そして今では、そのゆかりの港で日本人がボートをこいでいる。歴史というのは、やはりどこか神秘を感じさせるところがあるようだ。

 「こっちが岸だよ。そろそろね」。係員の大声ではっとしたのは、そんな思いをはせていた時。悠久の歴史の流れもいいが、気付けば、けっこう沖に流されていた。 (杉藤貴浩)