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米サンズポイント 著作権は切れたけど

2021年02月05日

 ニューヨーク市から東へ30キロ。豪邸が立ち並ぶサンズポイント周辺は、作家フィッツジェラルドの小説「グレート・ギャツビー」の舞台の1つとされる。米国が空前のバブルに沸いた1920年代、登場人物たちは海と摩天楼を望むこの地で、恋とパーティーに明け暮れた。

 出版から約1世紀。米メディアによると、この作品の著作権が今年に入り失効した。「薄いひげのような蔦(つた)の若葉のかげに真新しい塔が屹立(きつりつ)し、大理石のプールがあり、40エーカー以上もある芝生や庭がひらけている」(野崎孝訳)。主人公ギャツビーの大邸宅を描いたこうした文章も、今や社会に開放された公共財というわけか。

 そんなことを考えながら、ドライブついでに現地に寄ってみた。穏やかな波の音を聞きながら、冬の夕日が沈むマンハッタンを遠くに見渡せる。確かに素晴らしい地だ。ただ、さらに波打ち際へ歩を進めると1枚の看板が。「この先、居住者限定」

 「お先にどうぞ」。思わず、後から来た地元住民らしき老夫婦に道を譲った。名作はともかく、究極の絶景はまだ開放されていないようなので…。 (杉藤貴浩)