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上海 統制下で楽しむ飲食

2021年02月10日

 「社会主義国に住んでてよかったね」。上海の民間企業に勤める中国人の男性とランチに出かけたとき、冗談交じりに言われた。「民主主義の国ではこんな厳しい新型コロナウイルス対策は取れないし、こんなおおっぴらに外食できないでしょう」

 苦笑するしかなかった。日本の友人に申し訳ないと思いながらも次々と会食の約束もしている。街中の飲食店には若者が集い、公園では高齢者がダンスに興じているが、確かに厳しいコロナ対策があってのものだ。

 しかし、こうした娯楽に興じるのにどれだけの「コスト」を支払っているのか。政府に行動経路の情報を提供するのにも慣れた。海外から入国すればホテルの一室で非人道的な隔離を受ける。国家の号令の下で個人の権利が希薄化していくのが当たり前のことになりかけている。

 最初に集団感染が起きた武漢市では政府の責任を問おうとする遺族が弾圧されているが、その現実を知る人はほとんどいない。会食した男性は「国内の統制はもっと厳しくなるだろう」と予測。こんな苦々しい話をしながら食べた上海料理が美味だと感じたことも、残念ながら否定できない事実だ。 (白山泉)