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スーダン・ハムダイート 川向こう帰れぬ祖国

2021年02月15日

 丘の上からは、地面を割るように流れる緑の川が見えた。西日を受けて光るのは、エチオピアとスーダンの国境沿いを流れるタケイズ川。川のあるスーダン東部ハムダイートを訪れると、エチオピアから来た難民らが浅瀬で洗濯をしていた。

 難民たちが川を渡り始めたのは2カ月前。エチオピア北部ティグレ州で政府軍と地元軍の武力衝突が始まり、その混乱に乗じて民兵らが州内の村を襲撃した。5万3000人以上が隣国スーダンへと逃れ、その主なルートがタケイズ川越えだった。

 洗濯中の難民たちに声をかけると、思いのほか明るい調子で答えてくれた。しかし、話す内容は凄惨(せいさん)で、隣人が殺害されるのを見て逃げてきた人、逃げる途中で子どもとはぐれた人、両親を現地に残してきた人など、さまざまな事情を抱えていた。そして、みんな一様に「帰る家はもうない」と漏らした。

 川の浅瀬に入ってみた。流れは急で川底は滑り、何度も転びそうになった。対岸のその先で、一体何が起きているのか。人々はどんな思いでこの川を渡ったのか。「帰る家はない」。ついさっき聞いた言葉が、いっそう重みを増した。 (蜘手美鶴)