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バンコク 前向き国際線乗務員

2021年02月24日

 年明けに仕事場を整理中、引き出しから印刷した申込書を見つけるまで忘れていた。昨夏に購入した航空会社の国内線乗り放題チケットだ。新型コロナウイルス禍での売り上げ確保に、旅行需要を当て込んで発売された。一度も使うことなく、年末までの期限が過ぎてしまった。

 海外渡航の正常化は遠い。疲弊する航空会社は飲食や小売りなどにも参入し、あの手この手で生き残りを図る。リストラにさらされる従業員も同じ。

 「でも、思っていたより楽しく過ごせている」。バンコクに本社を置く国際線の乗務員(25)は10カ月近く仕事から遠ざかっているが、意外な答えが返ってきた。浮いた時間を使い、自宅でクッキーを焼き始めた。初めは友人に、次にネットで売り始め、収入もぼちぼち。本業復帰はみえないが「以前は忙しすぎた。コロナで自分を見つめ直す余裕が持て、救われた面もある」と前向きだ。

 後先を考えず、まず挑戦、行動に移すのはタイ人気質の1つ。成功する方がまれだろうが、心意気に感心させられる。チケットの出費は無駄になったが、ささやかな応援だったと思うことにした。 (岩崎健太朗)