【本文】

  1. トップ
  2. コラム
  3. 世界の街
  4. 韓国
  5. ソウル 凍った大河、戦車が…

ソウル 凍った大河、戦車が…

2021年02月22日

 幅1キロにも及ぶ川面が巨大な鏡のように固まり、川沿いに林立する高層アパートや鉄橋を映している。氷点下20度に迫る日が続いた1月のソウル。1986年以来、35年ぶりの寒さで、漢江(ハンガン)が結氷した。

 河川敷に立ち、氷盤に乗ってみたいという衝動に駆られていると、近所で暮らして80余年になるという高齢男性が声をかけてきた。「危ないよ! まだ薄氷だから、乗ったら割れそう。私が子どものころは、氷はもっと厚かったから、穴を開けて魚を釣る人もいたけどね」

 男性は、50年代の朝鮮戦争時、漢江に張った氷の上を、戦車が走ったという逸話についても語ってくれた。家族で地方に疎開したため、実際に目撃することはなかったというが、「真冬は北朝鮮の戦車が氷を渡って南進してくるかもと恐ろしかった」と振り返った。

 北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)政権が最近、軍事パレードで誇示するようになった新型の戦車が頭をよぎる。万が一でも、漢江が再び戦場となり、戦車が行き交うような日は来てほしくない。静寂に包まれた氷盤をよちよちと歩く水鳥たちを見つめながら、願った。 (相坂穣)