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仏ブローニュシュルメール 英海域の魚 国籍は?

2021年03月03日

 「魚の『国籍』の問題です」。英国の欧州連合(EU)離脱で影響を受ける漁業者の取材で訪れたフランス北部ブローニュシュルメールの漁港。「なぜ仏漁船は英海域での操業に固執するのか」という以前からの疑問を地元の漁協幹部にぶつけると、こんな答えが返ってきた。

 英仏を隔てるドーバー海峡は英海域の方が深く魚の成育に適しているので、仏海域でふ化した魚も成長すると、より良い環境を求めて英海域へ泳いでいってしまう。釣り上げる時点では英海域だが、もとは「仏国籍」の魚も多いのだから、漁獲する権利がある-というわけだ。

 同港の漁船は仏最多を誇る漁獲高の大半を英海域の漁場に頼っていただけに、後付けの理由だとしても主張したくなる気持ちは分かる気がした。

 英国との自由貿易協定(FTA)妥結でEU漁船には英海域での漁業権が残ったが、港にいた漁師からはこんな愚痴も。「英海域もオランダやベルギーのやつらが乱獲するから資源は減る一方だ」。コロナ禍でも苦しむ仏漁師たちが「仏国籍の魚はすなわち『EU市民』でもある」という発想にはなれないのも無理はない。 (谷悠己)