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モスクワ 市民服従させる暴力

2021年03月04日

 モスクワで反政権デモを取材した。数万もの人々が、広場に出て喚声を上げる。見る限り、デモ隊はいたって平和的に行動しているのだが、治安部隊がやって来ては、一人ずつ排除していく。

 治安部隊は4人組で肩を怒らせ、辺りを見渡す。おもむろに「標的」となる市民を見つけ、捕まえにかかる。その市民が逃げると、治安部隊は追い回して殴る蹴るを繰り返す。

 その手口を見ていて、気が付いた。治安部隊は「標的」を無作為に抽出しているのだ。

 ピースサインをしている人。声を上げている人。物珍しさからキョロキョロしている人。治安部隊に目を付けられたら運の尽きだ。頭を押さえ付けられ、拘束用の車両に収容される。見せしめの「暴力ショー」だ。

 この国では、1917年のロシア革命直後から、常に秘密警察と治安部隊がいた。中央の権力を維持し、「反乱分子」を取り締まるため。

 でも今日、ロシアで広場に出る人々は当たり前の「自由」を訴えているだけではないか。国民を服従させるための政府の暴力は、野蛮で恐ろしい。 (小柳悠志)