2021年03月17日

　「どんどん新しいサービスを開発してください。その後に私たちが規制をかけますので」。ある上海の企業人は政府担当者からこうハッパを掛けられた。「規制されると分かっていて新しいサービスを開発するのも…」と複雑な心境だったそうだ。

　世界に先駆けて経済を回復させた中国では、政府当局のイノベーションにかける意気込みが熱い。技術開発を促すインフラ投資の拡大方針も打ち出され、市内各所で新しいオフィスビルも建設されている。しかし、香港の不動産開発企業の関係者は「イノベーションの看板を掛けた単なる不動産事業だ」と冷めた視線を送る。

　中国のＩＴ産業専門家は「新型コロナウイルスを制圧し、世界に勝利したような空気が広がっている。そんな場所で新しいものは生まれない」。スマホの電子決済が普及したのは、偽札をなくしたいという社会の強い要求があったから。「コロナ時代のイノベーションの担い手は中国ではなく、不便な暮らしを強いられている先進国だろう」。そういわれると、政府の必死な旗振りもイノベーションの「冬の時代」を象徴しているように思えてくる。　（白山泉）