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米ミネアポリス 街角に悲しげな壁画

2021年05月20日

 街角の商店の外壁に、数人のアーティストが黙々とペンキを塗っている。その筆先には、穏やかにほほ笑む若い男性の顔があった。

 昨年5月、黒人男性ジョージ・フロイドさん=当時(46)=が白人警官に暴行され、死亡した米ミネソタ州ミネアポリス。だが、壁の顔はフロイドさんではない。今年4月に近くの街で白人警官に射殺された黒人のダンテ・ライトさん(20)だ。取り締まりのきっかけは交通違反と軽微な逮捕状だった。

 「警察は多額の予算を使うくせに、われわれを殺すだけだ」。ペンキ入りの缶を片手に、黒人男性バイユーさん(39)がつぶやいた。普段はデジタルアートを専門にするが、仲間の呼び掛けに応じ、ライトさんの壁画を描きに集まった。「彼の命に、せめて敬意を示そうとね」

 フロイドさんを死なせた元警官には有罪評決が下ったが、その後も警察の取り締まりで命を落とす黒人のニュースが続いている。ライトさんの肖像は青空に映え、見事な出来栄えだった。でも、バイユーさんたちが新たな壁画を描くことがないように。そう願って街を後にした。 (杉藤貴浩)