2021年06月17日
「ほら、聞こえるか?」。電話越しにハリールさん(50)が聞いてきた。耳を澄ませると、電話の向こうで何かがはぜる音が聞こえる。パレスチナ自治区ガザに落ちる爆弾の音だ。イスラエルとイスラム主義組織ハマスが停戦合意する前日だった。
11日間続いたガザ空爆の中、ハリールさんはよく電話をくれた。慌てた口調のときもあれば、家でくつろいでいるような口調のときも。停電の影響で何度も電話が切れた。多くの人が亡くなったこと、病院がパンク寸前なこと、空爆されて逃げ場がないこと…。電話のたび、止めどなく話してくれた。
そして、いつも聞かれたのが「日本人はこのニュースをどう思うのか?」。来日経験のある親日のハリールさんは、日本政府にも停戦の働き掛けをしてほしいと訴えた。日本人に現状を伝えたいとの思いも強かった。
5月21日未明。停戦が発効し、空爆はやんだ。その日も電話をくれ、開口一番、「ありがとう」とハリールさん。「なぜ?」と尋ねると、「記事を書いてくれたから」。彼の望むように、私は現状を伝えきれたか。電話越しの爆発音がずっとやむことを願う。(蜘手美鶴)