2021年08月11日

　一見すると、サッカーの試合観戦を心待ちにする若者の行列のようだった。

　６月下旬の４日間、ロンドン中心部のサッカー競技場が、新型コロナウイルスワクチンの接種会場として利用された。競技場は人気プロチームの本拠地で、接種者には場内見学ツアーの特典も。遅れている若者への接種の拡大を狙って地元自治体が催し、大勢が連日来場した。

　スマホ片手に自撮りしながら進んだり、サッカーボールを蹴りながら入場する人もいて、会場は楽しげな雰囲気に包まれた。ただ、話し掛けると、若者が口にしたのは暗い言葉だった。

　ある少女（１８）は今秋の大学入学を心待ちにするが「これからの講義はオンライン中心に変わるかも。十分に勉強できるのか不安」と学力の低下を懸念。大学生の少年（１９）は「経済的打撃は長引くだろうし、サービス業などは従来の姿に戻らないだろう」と景気低迷の長期化やビジネス手法の激変を心配した。

　コロナ禍の収束時期やその後の社会の姿が見通せず、自分の将来像を描くのが難しい若者たち。悩みを語る間は、実現したワクチン接種の喜びも消えているようだった。　（藤沢有哉）